会社が保有する債権を売却することで資金を入手するファクタリング。債権の支払期日を待たずに現金化できることから、資金調達方法として優れています。しかしながらファクタリングを不正利用するケースが見られます。主に「必要書類の偽造」「架空債権」「二重譲渡」です。これらはいずれも法令に触れ、犯罪行為です。犯罪防止のために詳しく解説していきます。
【必要書類の偽造】
ファクタリングを申請する際に請求書や売買契約書に加え、これまでの取引実績を示すために預金通帳や決算報告書、本人確認書類として代表者の運転免許証やパスポートを提出します。審査に有利になるように少しでも会社の規模を大きく見せるために、必要書類を偽造するケースがあります。しかしながら預金通帳の取引履歴を偽造する行為や、代表者を別人になりすますための運転免許証の偽造行為は犯罪行為です。偽の預金通帳を作成した場合は私文書偽造罪(刑法第159条1項)、すでにある預金通帳の中身を書き換えた場合は私文書変造罪(第159条2項)、これらの預金通帳をファクタリング会社に提出した場合偽造・変造私文書行使罪(第161条1項)に該当します。また、なりすまし目的で他人の通帳を有償・無償で譲り受ける行為は犯罪収益移転防止法違反です(犯罪収益移転防止法第28条1項)。
運転免許証やパスポートは国が発行する公文書です。したがって公文書の偽造は公文書偽造罪(刑法第155条1項)、変造は公文書変造罪(第155条2項)、これらをファクタリング会社に提出すると偽造・変造公文書行使罪(第158条1項)に該当します。さらにファクタリング会社を騙す目的で預金通帳や運転免許証の偽造・変造を行っているので、詐欺罪(第246条)に当たります。詐欺罪は未遂も処罰されるので(第250条)、仮にファクタリング会社が騙されなくても、あるいは審査に落ちたとしても偽造文書を提出した時点で詐欺未遂罪の成立です。文書偽造の罪と詐欺罪は牽連犯(45条1項)の関係にあるので、刑罰は私文書偽造で3ヶ月以上10年以下の懲役刑、公文書偽造で1年以上10年以下の懲役刑となります。
【架空債権】
実際には債権が存在しないのに、債権があるかのように見せかけることを架空債権といいます。ファクタリングは債権を譲渡する代わりに資金を獲得します。したがって保有債権がなければファクタリングを申請できません。通常ファクタリングを申請する際に債権があることの証明として、請求書や売買契約書をファクタリング会社に提出します。架空債権では請求書や売買契約書を偽造して、あたかも債権があるかのように振る舞います。また、すでに支払い済みの債権を再利用するケースもあります。
請求書の偽造は自己名義のため私文書偽造には該当しません。一方売買契約書の偽造は私文書偽造・行使罪に該当します。そしてファクタリング会社を騙す目的で偽造を行っているので詐欺罪に該当します。申請が通らず資金を獲得できなかったとしても、偽造書類を提出した時点で詐欺未遂罪です。刑罰は請求書の偽造のみなら10年以下の懲役刑、売買契約書の偽造であれば3ヶ月以上10年以下の懲役刑です。またファクタリング会社から不法行為による損害賠償請求(民法第709条)がなされ、不正に入手した資金の返還と損害遅延金を支払わなければなりません。
【二重譲渡】
二重譲渡とは、一度ファクタリング会社に譲渡した債権を、また別のファクタリング会社に譲渡することです。実際に債権回収が可能なのは1社のみです。審査に自信がなく、複数のファクタリング会社に申請して結果的に二重譲渡になってしまったケースは罪には問われません。しかしながら始めから悪意を持って、債権譲渡登記される前に二重譲渡するような悪質なケースは犯罪行為に該当します。二重譲渡と理解して2社目のファクタリング会社に申請した時点で詐欺未遂罪、資金を入手した段階で詐欺罪が成立します。また他人の債権を権限なく譲渡したということで、業務上横領罪(刑法第253条)に該当する可能性もあります。刑罰はどちらも10年以下の懲役刑です。さらに不法行為による損害賠償請求がなされ、資金の返還・損害遅延金の支払いが必要です。
【安全にファクタリングを利用しましょう】
以上のように「必要書類の偽造」「架空債権」「二重譲渡」は犯罪行為です。特に詐欺罪の刑罰は10年以下と重く、実刑になる可能性もあります。また犯罪行為が明るみに出れば、会社の社会的信用も底に落ちます。ファクタリング会社は債権のプロフェッショナルです。こうした行為はすぐに見抜かれます。絶対に行わないよう心がけてください。